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コロナ危機をきっかけに多くの企業が導入を急いだテレワーク。でも、そもそもテレワークはコロナ対策だから必要なのでしょうか?

2020年に入って新型コロナウィルスの感染が拡大するにつれ、3月には外出自粛要請、さらに4月から5月にかけては緊急事態宣言が出され、各企業は出社の自粛などの対策を余儀なくされました。2021年になっても東京を中心に再び緊急事態宣言が出されるなど、感染の拡大はおさまっていません。そこで必要とされているのが在宅勤務ができるテレワークの実施です。

コロナ禍で、もはや欠かせなくなったテレワークは、いつ頃登場して、どのような変遷をたどってきたのでしょうか。

日本のテレワーク事情

日本でなかなか普及しないテレワーク

日本では、1980 年代半ばにテレワークの黎明期を迎えます。バブル経済期にちょっとしたブームになりますが、バブル崩壊後は急速に後退してしまいました。その後、2006 年9 月に安倍首相(当時)が所信表明演説の中で、「自宅で仕事を可能にするテレワークの人口を倍増させ、生産性を大幅に向上させます」と宣言した頃から、再び、テレワークに関心が集まります。

日本では雇用関係の有無でテレワークを区分しています。企業などに雇用されて在宅勤務などを行う「雇用型テレワーク」と、フリーライターや SOHO などの「自営型テレワーク」に大別されます。また、情報通信機器等を利用して仕事をする時間が1週間当たり8時間以上の場合は「狭義のテレワーカー」、それ以外は「広義のテレワーカー」と定義されています。

SOHO とは

”Small Office Home Office” の略で、パソコンやインターネットを活用して、自宅など小規模のオフィスで仕事をする形態、といった意味で使われます。

国土交通省が2002年度に実施したテレワークの人口調査では、「狭義のテレワーカー」のうち、「雇用型テレワーク」と「自営型テレワーク」を合わせた人口は408万人で就業者人口の6.1%という結果でした。それが、3年後の2005年度には10.4%まで増加しています。

狭義テレワーカー率の推移(国土交通省 平成26年度テレワーク人口実態調査による)

政府は2007年のテレワーク人口倍増アクションプランで、「2010年には、2005年のテレワーク人口の2倍(1300万人)にする」という政策目標を掲げました。しかし、2010年度の国土交通省の調査では、狭義のテレワーカー率は16.5%(1087万人)で、結局、2005年度(10.4%)の2倍という政策目標には届きませんでした。2012年に21.3%に達しますが、それをピークに減少傾向となり伸び悩みます。

その後も、日本ではテレワークの普及が遅れていました。通勤で利用する公共交通機関網が他国と比較して広範囲に発達していることや、企業の人事評価制度の問題などが要因として考えられます。

出社自粛を目的に普及が進むテレワーク

そして2020年、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する中、4月7日に東京都などで緊急事態宣言が発出されると、人との接触機会が多い満員電車の解消などのためテレワークが推奨されました。これによりテレワークを実施する企業が相次ぎます。

全てがテレワークによる減少とは限らないものの、4月の緊急事態宣言発令時には、丸の内や八重洲など比較的大企業のオフィスが周辺に存在する東京駅の利用者は、朝7時台は5割近く減少、8時台は7割近く減少したという調査結果も報告され、明らかに通勤する人の量が減り、一定の効果は出ていると考えられます。

また、2021年2月の発表では、東京都内企業の1月のテレワーク導入率は、57.1%で前月より5%以上の上昇になりました。

このように、コロナ危機がきっかけで導入が広がっているテレワークですが、そもそもテレワークを導入する本来の目的は人同士の接触機会を減らすことなのでしょうか。

実はテレワークの考え方はわりと古くからあったようです。どのように登場してどのように広がってきたものなのか、そこにテレワークが必要とされる理由のヒントがありそうです。まずはテレワークの生まれた経緯をみてみましょう。

テレワークの歴史

テレワークはどのようにして生まれた?

テレワークは、英語の「テレコミューティング( telecommuting 遠隔通勤という意味)」と同義で、1970年代には「電気通信および関連する情報技術を移動の代わりに使用する業務関連の代替」を意味する言葉としてすでに使われていました。

「テレコミューティング」とう概念が一般的になったのは、米国の未来社会学者であるアルヴィン・トフラーが1980 年に『第三の波』で描いた情報社会に登場する「エレクトリック・コテージ」が元になっていると考えられます。この中でトフラーは、情報通信技術を活用して自宅にいながら仕事を行う生活が現実のものになるという説を唱えていて、それはまさに現在の「在宅勤務型のテレワーク」とほぼ同じ考え方でした。

1990年代にはテレワークがポップカルチャーの注目の的となり、「仕事は私たちが行うことであり、私たちがいる場所ではない(Work is what we do, not where we are)」など、テレワークに関連する標語が作られたほどです。

その後、テレワークは様々な企業、政府、非営利団体で採用されていきます。その目的は以下のものが挙げられます。

  • コスト削減
  • 通勤時間を減らして社員の生活の質を向上させること
  • 労働者が仕事上の責任と私生活や家族の役割(子育てや両親の介護など)とのバランスを取りやすくすること

さらには、渋滞や大気汚染を軽減できるなど、環境上の理由からテレワークを採用している組織もあります。

ロイターの世論調査によると、2012年頃には、世界中の労働者の約5人に1人、特に中東、ラテンアメリカ、アジアの従業員は頻繁に在宅勤務をしており、10%近くが毎日自宅で仕事をしているとされました。

このようにテレワークは世界的に広く採用されてきました。ちなみに従来の「テレコミューティング」という用語は現在でも米国などで一般的な表現として使われており、欧州などでは「eWork 」という表現が用いられることが多いようです。

日本でのテレワーク普及の様子

①1980年代半ば 日本にテレワークが登場

日本にテレワークが登場するのは1984年頃から87年頃、米国で普及し始めた新しい勤務形態を参考にして取り入れる企業が現れたのが始まりです。その中で最も本格的にテレワークの導入に取り組んだのが日本電気(NEC)だったと言われています。

同社は、1984年から90年にかけて東京・吉祥寺にサテライトオフィスを設置します。それは、結婚や出産を機に女性社員が退職するのが通例だった当時、比較的通勤しやすい吉祥寺にオフィスを設けて都心の本社オフィスと同様の業務環境を実現し、そこへ通勤してもらうことで優秀な女性社員(プログラマーなどが中心)の能力を活用し続けるためのものでした。

②1980年代末~92年頃 地価高騰や労働市場対策でテレワークブーム到来

1980年代末になるとテレワークに関する状況は一変します。バブル経済で景気が過熱するなか、全国的に地価が急激に高騰した結果、特に都市部のオフィスは賃料が高騰し、オフィスを維持するためのコストが多くの企業経営を圧迫しました。東京の都心部では、社員1人あたりのオフィス維持コストが年間300万円に達したという試算もあるそうです。そこで企業の多くはオフィスなどの資産活用の考え方を変えなければなりませんでした。

また、好景気により人材を確保する必要が生じたため、企業の魅力を高めることに力を入れ、働きやすいことをアピールする企業が多くなったことも背景になって、テレワークを導入する企業が相次ぎ、ちょっとしたテレワークブームが到来しました。

しかし、この頃は、NTT の ISDN サービスの提供が開始されたばかりで、パソコンもまだ十分に普及しておらず、とても在宅勤務を実現できるような社会インフラは整っていませんでした。そのような環境では当然、サラリーマンが自宅で仕事をこなすのは容易ではありません。このため、テレワークといっても、多くの企業は「サテライトオフィス」と呼ばれる郊外立地型オフィスを設置することで実現したのが特徴です。

③1993年頃~1997年頃 ブーム衰退と地域活性化を目的としたテレワークの模索

これらのサテライトオフィスは、バブル経済の崩壊とともに閉鎖や撤退を余儀なくされます。地価が急落して賃料を始めとするオフィスの維持コストが低下、都市部でのオフィスの維持ができるようになったことや、不況下で労働市場が「買い手市場」になったことで、働きやすさをアピールして働き手を引き付ける必要がなくなったことも要因になったようです。

1994年にはインターネットの商用利用が開始されたものの、現在のような日常的に情報共有やコミュニケーションを行いながらパソコンで業務ができる環境ではありませんでした。

このため、サテライトオフィスでの勤務は、業務効率はもちろん、情報共有や意思疎通などの点で本社オフィスでの勤務と同じようにできるものではなく、企業にとって積極的に導入して展開させようという動きまでにはなりませんでした。また、サテライトオフィスの象徴だったテレビ会議システムも使い勝手が悪く、当時最新鋭だった情報通信システムも結局は広がりませんでした。

こうした状況からテレワークブームは衰退し、しばらく注目されませんでした。しかし、水面下では、テレワークの新たなスタイルの模索が続いていました。この頃から、地域での事業創出・雇用創出を通じた地域活性化を目的として、ビジネス需要地との間をテレビ会議システムで結んで仕事を行う施設を想定したテレワークセンターが、地方立地で開設されるようになります。これらの中には身体障害者用サテライトオフィスが出現するなど、新たな働き方を探る動きもでてきます。

またこの頃から、自宅等を拠点として事業を展開する SOHO が出現します。

④1998年頃~2005年頃 BPR の一環でテレワークを再評価

このような過程を経て、パソコンを利用してインターネットを活用する業務形態が一般的になると、テレワークを再評価する動きが見られるようになります。バブル経済期は地価高騰や労働市場の対策でテレワークを導入したのに対し、この時期は、どちらかと言えば企業のBPRの一環として、より効率的な働き方を探る中でテレワークの導入に取り組んだのが特徴です。

BPR とは

Business Process Re-engineering の略で、業務本来の目的に向かって既存の組織や制度を抜本的に見直し、プロセスの視点で、職務、業務フロー、管理機構、情報システムをデザインしなおすことを意味します。

バブル崩壊後10 年ほどの間は、金融機関の倒産などが相次ぎ、国際競争力が低下する中、日本の企業は生産性向上の必要性に迫られていました。それと同時に「マルチメディアブーム」と呼ばれる社会現象が生じ、電子メールやインターネット、モバイルコンピューター、携帯電話、などといった情報メディアやアプリケーションが一般的な職場に普及してきました。

この頃になると、高価で大規模なテレビ会議システムをベースとしたサテライトオフィスではなく、パソコン、電子メール、DTC( 卓上型テレビ会議システム)など、日常的に利用している情報通信メディアをそのまま活用するオフィスで、他の事業所への出張や外勤の営業担当者が立ち寄って業務を進めることができる、モバイルワーク支援施設といったものでした。また、「ビジネスセンター」と呼ぶ、立ち寄り型のオフィスも開設・運用されました。

さらに、1994 年に米国カリフォルニアで発生した大地震(ノースリッジ地震)の際に、出社できなくなったワーカー達が在宅で仕事を進めたという話から、情報通信メディアの発達・普及により在宅勤務の必要性が問われていました。

この時期には日本政府もIT活用の必要性を説き、 IT 戦略を打ち出しています。2001年に国内初の「e-Japan 戦略」で IT 基盤整備を、続く2003年「e-Japan 戦略Ⅱ」で IT 利用・活用の重視を、2006年の「IT 新改革戦略」では IT の構造改革力の追求を掲げて、IT革命を推し進めています。

このように、日常的に利用している情報通信メディアを活用して、本来のオフィス以外の場所でも効率的に業務を行うことができるテレワークが現実のものとなってきました。

⑤ 2006 年頃~ ワークライフバランスの実現に向けたテレワーク推進

2000年代に入る頃から、少子化・高齢化問題、地域格差・地方の疲弊問題、地球温暖化問題など、大きな課題が顕在化します。

少子化・高齢化問題は、市場の縮小・労働力の減少を招くため、例えば女性・高齢者・障がい者等の社会参画やワークライフバランスの向上を目指すこと、地域格差・地方の疲弊問題に対しては、例えば地方での雇用創出による地域活性化すること、地球温暖化問題は、モーダルシフト(例えば通勤手段を自家用車から公共交通機関にする)など、各課題に対する解決策として取り組まれていました。

テレワークは、これらを総合的に解決できる手段として、再び注目されつつありました。

そして、2006年9月に安倍首相(当時)が所信表明演説の中で「テレワーク人口の倍増」を掲げたことから、再びテレワークに関心が集まります。この時は、情報通信インフラを活用して生産性を向上させる戦略の一環としてテレワークの推進を掲げていましたが、2007 年にはワークライフバランス(仕事と生活の調和)の実現がテレワーク推進の目的として掲げられています。

ワークライフバランスの実現とは、国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働いて仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいて、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会を目指すことであり、テレワークの普及によってそれを実現しようという考え方です。

こうした中、政府は2009年、在宅型テレワーカーを2015年には700 万人に増やす、という新たな国家目標を掲げて推進に努めています。さらに、2016年にはテレワークに関する府省連携を強化して女性活躍・ワークライフバランスの実現、国家公務員のテレワーク導入等の推進を行うとしています。

しかし、2018年時点の普及状況をみると、テレワークを導入している企業は13.9%(導入予定を含めると18.2%)で、導入済みの企業であっても利用者数は従業員の5%未満という企業が51.4%と過半数を超え、この時点でテレワークの普及はまだまだ進んでいるとは言えない状況でした。

そこで、総務省は2019年のテレワーク推進施策として、テレワーク専門家の派遣やセミナー開催や展示会への出展(テレワークマネージャー派遣事業)、先進企業・団体の事例収集と表彰(テレワーク先駆者百選)などのテレワーク普及展開事業や、テレワーク環境整備としてサテライトオフィス整備や地域IoT実装推進事業を行っています。

その中のテレワーク普及展開事業の一環として、2017年から「テレワーク・デイズ」を毎年行っており、2020年オリンピック東京大会1年前の本番テストとして7月22日(月)~9月6日(金)の期間に「テレワーク・デイズ2019」を実施、WEBサイトの構築や事務局運営、広報活動、イベントの開催、効果検証等の取り組みを行いました。このイベントには様々な企業が参加してその実施報告がされています。

そして2020年に入って起きたコロナ危機の中、感染リスクを減らす対策として企業の働き方を変えるため、テレワークの導入が推奨されているのです。

コロナ危機でなかったとしてもテレワーク導入は必要

テレワークの登場と変遷についてみてきたように、まずテレワークが日本の企業で実践されたのは、女性社員の戦力を確保するために、働き方や勤務する場所の工夫をすることから始まりました。また、オフィスの在り方の見直しやコスト削減などの目的でテレワークの導入が試みられてきました。しかし、技術面や社会環境などの課題によりなかなか定着しませんでした。

それでも、2000年に入って顕在化した様々な課題をトータル的に解決できる手段として、テレワークが注目され続けていることには変わりなく、最近ではIT技術の革新などによりテレワークを導入する環境も整ってきました。

そうした状況の中で最近テレワークそのものにも変化が出てきています。

最近の動き テレワークの変化

テレワークを導入している大企業の取り組みをみると、早いところでは10年以上も前からその重要性を認識して、新しい働き方を実現するために社風や制度の見直し、インフラの構築に試行錯誤を繰り返して、ようやく導入にこぎつけた企業も少なくありません。こうして考えるとテレワークは必然的に導入が進められてきたのであり、コロナ対策だから必要になったのではない、と言えます。

テレワークを導入することにより、得られるメリットは大きいものがあります。たとえ、コロナ対策が導入のきっかけになったとしても、今後、テレワークを上手く活用して新しい働き方を定着させることができれば、きっとその恩恵を受けることができるはずです。

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たとえコロナ対策がきっかけだったとしても、導入してよかったと感じられるようなテレワークの運用ができれるといいですね。
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