withコロナで進む企業の模索
長期戦を見据えた動き
2020年に入り新型コロナウイルスの感染が拡大して3月には緊急事態宣言が発出されました。5月には解除されたものの、6月の終わりには再び感染者が増え始めました。そんな中、大手企業のカルビーはいち早くテレワークによる勤務体制を続ける方針を打ち出しました。同社は、テレワークによる勤務で業務に支障がないと認定されれば単身赴任を解除するという方針も同時に発表しました。これは、新型コロナウィルスとの長期戦を見据えた判断と言えます。そして他の企業でも、テレワーク実施期間を無期限で延長する動きが相次いでいます。
ピンチをチャンスに変える取り組み
コロナ禍が長引く状況化で大きく売上が落ち込んだ業界でも、これまでの営業手段に代わる新しいやり方を考案して、なんとか乗り切ろうとする動きが広まっています。例えば、オンライン商戦があります。売上の落ち込んだデパート業界などが、対面販売に代わるオンライン上で付加価値をつけたサービスを提供する新しい販売方法を編み出しています。そうした新しい手段が、意外にも大きな成果をあげ、さらに新しいアイディアも生み出されていて、これまで以上の可能性が発見されて広がりつつあります。
都市集中から地方分散への動き
これまで都心に集中していた事業が地方へ分散する動きも出てきています。テレワークによって働く場所が限定されなくなったことから、都心で活動する必要がなくなり、働き方や働く場所が多様化しています。近年、自然災害が多く発生していることから、リスクの分散など緊急事態に備える重要性も増しており、今回のコロナ禍をきっかけに実際に対策に乗り出す企業も増えています。
生き残るカギはテレワークの定着
こうした動きの中でテレワークが重要な役割を果たしていることは間違いありません。しかし、コロナが収束した後もテレワークは企業に定着していくのでしょうか?
テレワークの定着は難しい?
民間の調査会社「東京商工リサーチ」が2020年6月末から7月はじめにかけて全国の企業を対象に実施したアンケートによると、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにテレワークを実施したが、緊急事態宣言が解除されると実施をやめた企業が26%にのぼることがわかりました。いざテレワークを始めたものの、継続できない企業が意外と多い印象です。
テレワークの実施をやめた企業は、自宅などで会社の情報を扱う際のセキュリティーの確保が難しかったこと、テレワークのシステムを使いこなせない社員が多かったこと、そうした理由からテレワークが浸透しなかったとしています。
定着のポイントは費用対効果が出せるか
一方で、テレワークの効果を実感して継続したいと思っている従業員も多く、企業側もせっかく費用をかけて導入したテレワークを緊急事態宣言が解除されたらもう必要ない、というわけにもいきません。勤務体制やルール策定などを実施してテレワークを実施する環境を整えた企業にとっては、それを使わなくなればこれまでの労力やコストが無駄になってしまいます。
テレワークが定着するには費用対効果が出せるかどうかにあります。しかし、費用対効果が目に見えて表れてくるまでにはそれなりに時間がかかると予想されます。また、従業員の意識と企業側の意識の違いを把握してそれを埋める改善策を出して実行していく必要があります。場合によっては、さらなる制度やルールの策定・改善が求められることになります。
そうした費用対効果が出るまで時間がかかることは予想されますが、withコロナの状況下では感染防止もしなければなりません。感染拡大を防ぐには社会全体でテレワークを実施することが効果的で、継続して実施できるよう支援をする必要があるという声も聞かれます。実際には、テレワークによる在宅勤務と通常勤務の形態を並行していく企業が必然的に多くなると考えられます。
テレワークは一時凌ぎのツールでしかない?
今回のコロナの問題がなかったとしても、別の疾病でパンデミックが起きる事態は十分想定されます。また、日本は台風や地震など災害の多い国です。今後、こうした事態によって出勤できない状況に直面することは十分想定されます。そして事態が起きる度に在宅勤務に切り替える必要に迫られる企業が出てくるでしょう。そうした企業の多くは、テレワークを「非常時の事業継続ツール」として使用する一時凌ぎの認識でしかないかもしれません。
以前から日本の企業や社会は、人手やイノベーション力の不足、少子高齢化といった課題を抱えてきました。テレワークはそれらの課題を解決する手段として注目されてきました。今回、コロナ禍をきっかけにテレワークの導入が進みました。しかし、コロナ禍がいずれ収束してテレワークが定着せず働き方が変わらなければ、これらの課題は結局解決できないことになります。
世界的にテレワーカーが当たり前の時代がやってくる
以前から言われている問題に「就労人口におけるフリーランスの割合」があります。アメリカでは2030年に60%に達するという試算があるそうです。日本でもいずれフリーランスが過半数を占める時代になると予想されます。
アメリカではフリーランスの多くは「オンラインワーカー」つまり、テレワーカーです。こうした働き手が増えていくのはアメリカに限らず世界的な流れになっています。その中で、企業としてテレワーカーをしっかりマネジメントできる能力が不可欠になってきます。もし日本の社会でテレワークによる働き方が定着しなければ、将来日本は国際的な競争に負けてしまいます。
もし今回のコロナ禍をきっかけにテレワークの定着が日本で進まなかったとしても、数年間はそれほど違いは表面化しないかもしれません。しかし10年のスパンで見れば、変革できなかった企業は淘汰されていくと予想されます。大半を占めるテレワーカーを管理できない会社は、就職市場においても優秀な人材に選んでもらえず、人材獲得競争にも勝てなくなるからです。
こうしたことから、テレワークという働き方はコロナ禍だから必要だったのではなく、日本の企業や社会にとって問題解決のために必要なものであると再認識することになるかもしれません。「非常時の事業継続ツール」としてではなく、日本の企業や社会にとっての「問題解決に必要なツール」としてテレワークが定着することが、これからの日本が世界競争に負けないための条件になってきます。テレワークが当たり前になる社会はまだ先かもしれませんが、10年スパンで考えると避けて通ることはできないようです。
新しい働き方に対応できるテレワーク
冒頭でも触れたように、新型コロナウイルスとの長期戦を見据えて各企業はテレワークによる在宅勤務や単身赴任制度の見直しなどの対応をとっています。日立製作所もそのうちの一企業ですが、同社はさらに新型コロナウイルスが収束した後を見据えた判断をしています。最初の緊急事態宣言が解除された後、2021年4月以降は週に2~3日、勤務日の50%程度を在宅勤務にする方針を発表しました。これは「ジョブ型雇用」へ転換する動きを加速させるのは「在宅勤務」だという考えに基づくもので、新しい働き方への転換を想定した動きだと言えます。
最近、この「ジョブ型雇用」という言葉がよく聞かれるようになりました。
これまでの「人に対して仕事を割り当てる」日本で主流の雇用形態ともいえる「メンバーシップ型雇用」とは異なり、「仕事に対して人を割り当てる」雇用形態です。
日本でもスタートアップ企業を中心に取り入れている企業も増えていますが、どちらかといえば海外企業で主流の雇用形態です。「職務記述書(ジョブディスクリプション)」にて職務・勤務地・労働時間・報酬などを明確に定めて雇用契約を締結します。社員の年齢や勤続年数は関係なく、その人自身の実力・スキル・成果が重要視されます。
ジョブ型雇用のメリットとしては、自分の能力を活かして経験やスキルで報酬を決めることができる、仕事に必要な能力を持った人材を必要なタイミングで募集するため、欠員が出た際に最適な人材を確保しやすいことです。
デメリットとしては、企業の方針転換や経済状況が変化した際に契約終了になる可能性が高い、自律的にスキルアップができなければキャリアアップが難しい、新卒者は経験がほとんど無いため仕事を得にくいといったことがあげられます。
同一労働同一賃金ルールの導入で移行が進む
2020年(中小企業は2021年)から同一労働同一賃金ルールによって「同じ仕事に就いている限り、正社員・非正社員であるかは関係なく、同一の賃金を支給する」ことになりました。仕事の内容によって賃金が決定するので、日本では長年続いてきた、業務内容に関係なく勤続年数によって給与が決まっていく「メンバーシップ型雇用」は、同一労働同一賃金ルールと相反する要素があり、雇用制度として維持していくことが難しくなると予想されます。既に終身雇用や年功序列の制度はなくなりつつあるため、今後は「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」に移行が進むと考えられます。
「ジョブ型雇用」が定着することによって、『キャリア形成』『複数社での勤務(いわゆる副業も含む)』『テレワーク』といった働き方への変化がより加速していくことになるでしょう。特にテレワークは成果ベースで働くことができる「ジョブ型雇用」と相性がよいことから定着が進むと考えられます。
テレワークは地域活性化の起爆剤になるか
日本の社会では地域の過疎化が問題になってきました。しかし、今回のコロナ危機がきっかけで働き方が大きく変化しつつあります。これまで本社や事業所の所在地に通勤できる人材しか雇用できなかったのが、テレワークによりサテライトオフィスや在宅での勤務が可能になることで、より多くの人材に出会い採用できるようになります。このように、テレワークによって働く場所が限定されなくなり、地方にサテライトオフィスを置いて事業活動を行う企業も増えています。
営業の面でもテレワークによりオンライン接客が可能になったことで、営業担当者が訪問できる顧客や来店する顧客だけでなく、遠方の顧客にも対応できるので、ターゲットにできる客層が広がるという利点が生まれています。
地域に密着した銀行などの業界でもなんとか地元の企業を元気にしようと模索する中、オンラインによる営業活動などが活発化しています。そうした動きを利用して地元の企業を支援して商品の販路を拡大につなげたり、様々なイベントをオンライン上で展開して、地元だけでなく全国、世界へも販路を広げるチャンスが生まれていて、地域社会が活気を取り戻す動きもあります。
テレワークの将来の形は
afterコロナの時代には不可欠になると考えられるテレワークですが、その形態はコロナ禍で急ごしらえで導入したものからは当然変わっていきます。
技術革新や制度、ルールの整備が進んでテレワークの活用が当たり前になり、経営戦略としても位置付けられるようになります。また、在宅勤務が目的だったテレワークもワーケーションなど、さらに多様化する働き方に対応して進化していきます。そして都市部だけでなく、地域社会での企業活動も増加して地方の活性化促進も期待されています。
コロナ禍で試行錯誤して手にいれた新しいスタイルは次第に定着して次の段階へ進みつつあります。もはやコロナ以前の形に戻ることはないでしょう。その新しい働き方をベースに新しいアイデアや戦略が次々と生み出され、さらに前に進んでいくことになります。そうした動きに順応できた企業だけがafterコロナの時代に生き残ることができると言っても過言ではありません。
テレワークは新しい働き方を実現する手段にすぎませんが、テレワークを上手く活用して世の中の変革に対応できた企業が afterコロナの時代で躍進することができるでしょう。
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